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石庭で有名な竜安寺。
昼時だったので
見学より先に
境内にある
湯豆腐店に入りました。
ここでも玄関で
しばらく待たされましたが
これが
京都の仕来たりなのかと
大分慣れてきていた
わたしは
余り腹が立ちませんでした。
中に通されると
部屋にはもう先客が何組も。
雪見障子の向こうには
よく手入れされた庭が広がり
空調の効いた部屋には
セミの鳴き声が
気持ちよく聞こえていました。
ところが、それは
突然始まったのです。
湯豆腐の鍋が運ばれて来て
「さあ、食べよう!」
と、箸を取り上げた時のこと。
裏の方から
『チェーンソー』の唸り声が
ウヲーンと
飛び込んで来たのです。
『何でだ?どうしてだ?
こんな食事時に!』
と、いくら考えていても
唸りは一向に静まりません。
「あのチェーンソーの音
竜安寺で木でも切ってるの?」
と、わたしは堪りかねて
仲居さんに聞きました。
「すいませんねえ。
うちのトイレを
修理しているんですよ」
と言うのが、その返事。
『なら、時間を変えて
仕事してもらってよ。
お客は竜安寺の
自然と静寂の中で
食事したくて
来てんだからさあ!』
と、言おうとした時
横から次女が袖を引いたので
わたしは言葉を
ぐっと飲み込みました。
だけど、豆腐を口に運ぶたび
『おもてなしの心って
京都の
専売特許じゃなかったの?』
とまた、嫌味な言葉が
わたしの
喉の奥に
湧き上がって来たのです。
心を残したままの孫息子を
横目で見ながら
わたし達は
これまた
長女が見つけてくれた
花見小路の広東料理屋に
入りました。
とは言え、孫息子は
料理屋に入っても
しょげ返ったまま。
出て来た料理にも
なかなか箸をつけず
老いの一徹も
少し心が揺れたのです。
花見小路から続く路地を
ちょっと入ったこの料理屋
余り待たされず
それでもちょっと待たされて
円卓のある部屋に通されました。
そこは
祇園や花見小路の
喧騒から隔絶された静寂の中。
雪見障子の向こうの
坪庭に
数本の立木が
揺らいでおりました。
座って部屋を見回すと
欄間に
『魯山人』とようやく読める
扁額が架かっていました。
それで案内の娘さんに聞くと
「魯山人の書で
『花意竹情』と読みます」
という返事。
意味はと問うと
「『花のようにあでやかで
竹のようにしおらしく』
という意味だそうです」
と、出しゃばる風もなく
すっと答えてくれました。
わたしは、18、9の娘さんが
すっと答えてくれたことが嬉しくて
何かにつけ
文句の多いわたしですが
ここでは
心乱されることもなく
おいしく料理をいただけたのです。
並ばずに済んだのだけれど
『食い物の恨みは恐ろしい』。
孫息子は涙まで浮かべて
わたしを睨み
ふてくされてしまったのです。
孫息子は
ずぼらなわたしとは違い
東京を発つ前に
旅行書に目を通し
「こことここでこれ食べよ!
ねっ、ママッ!」
と、長女と約束し
その甘味屋のパフェを
ひたすら
楽しみにしていたと
言うのです。
そのパフェを
「たかがパフェの為に並べるか!」
と、わたしは拒否したのです。
後で家内に話すと
「いい歳をして、どうして
4年生の気持ちになって
やれないのよ!」
と、笑われたり
怒られたりもしましたが
わたしだって
孫息子のふくれる気持ち
分からないじゃあありません。
だけど
愛する孫息子には
『世の中にはパフェ第1じゃない
じーじのような価値観もあるんだ』
ってことも
分かって欲しかったのです。
広大な庭園を
手入れする人を見て
わが家の草取りもしなきゃあなと
思い
六波羅蜜寺では
据え付けられた
牛像の腰を撫でまわし
去年手術した
わが腰の安寧を祈り
建仁寺では
かの有名な双龍図と
「あれはマニヤ、偽物よ」と娘が言う
舞妓さんもどきを見た後
わたし達は又しても
案内書に載っていた
祇園の甘味処へと向かったのです。
しかし
行ったのは良かったのですが
2階にあったその店の
入店を待つ長蛇の列は
階段に始まり
店前から歩道沿いに
何10mも続いていたのです。
「ふっ、ふっ、フザケンナ!!!
馬鹿らしい!
パフェ1個食うために
こんな列に並んでいられるか!!!」
と、わたしは老いの一徹
強引な主張を繰り返し
何とか一行を諦めさせ
並ばずに済んだのです。
娘たちの気持ち
わたしにだって
分からない訳じゃあ
ありません。
だけど
余りにオーバーな感激振りは
やっぱり
わたしの美学からは
遠く外れてしまうのです。
娘たちがはしゃいでいた
あの時
わたしは
テレビショッピングの
セールストーカーを
思い出していたのです。
よくやってるでしょ
テレビのショッピング番組で!
「さあ、お客様!
何やらかんやら。
さあ、お客様!
何たらかんたら。
さあ、お客様!
続々お電話頂いておりますが
さあ、お客様!
続々ご注文頂いておりますが
さあ、お客様!
残りも
僅かになってまいりましたが」
って、やっているでしょ。
1人だけ興奮して
やたら早口で上っ調子に
しゃべっている人いるでしょ。
あんな風にしゃべられて
わたしはいつも
ちょっと引いてしまって
いるのです。
でもね、あの人の
しゃべりのスタイルが
悪いって言っているんじゃあ
ないのです。
あの人はあの人の
しゃべり方をしていいのです。
でも、わたしは
わたしの可愛い娘たちには
せっかく京都に来ているのだから
来ていなくてもだけれど
もうちょっと『はんなりした』会話を
して欲しいのです。