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「お母さんがちょっと暗いからさ
何とか慰めてやってくれ!」
 
『脇で話している
わたしの電話が聞こえない』
 
と、愚痴りまくる母とのやり取りに
疲れ切ったわたしは
 
真正4女に電話をかけ
母に代わりました。
 
「分るように話してよって
太郎さんに頼めばいいじゃない。
 
太郎さんだったら
ちゃんとしゃべってくれるわよ」
 
と、母から一部始終を聞いた真正4女が
電話の向こうで言っています。
 
わたしは
ふたりのやり取りを聞きながら
 
『人の気も知らないで』
 
っと、真正4女の言い草に
またまたうんざりしたのです。
 
真正4女にだって
うまい言い方がないことは分っています。
 
でも、もうちょっと何か
 
母の気を逸らすようなことを
言って欲しかったのです。
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「誰と話してたの?
何話してたの?
 
私には
何にも聞こえないのよ。
 
兄ちゃんの言ってることが
まったく分らないのよ!」
 
わたしが長姉への電話を終わると
 
待ち構えていた母が
顔をしかめて言いました。
 
母はわたしの電話に
聞き耳を立てていたのです。
 
「聞こえないたって
こうやって僕と話してるじゃない。
 
今僕が言ってること
ちゃんと聞こえてるんでしょ!
 
なら、それでいいじゃない!」
 
わたしは『またかよ』と
うんざりしながら言いました。
 
「面と向かえば
そりゃあ聞こえるわよ。
 
だけど、兄ちゃんが
電話で話してることが分らないのよ」
 
「そんなの
分らなくたっていいんだよ。
 
ぼかあ
翔子姉ちゃんと話していたんだよ。
 
だから
お母さんに分らなくて当然
 
お母さんには聞こえなくたって
いいんだよ」
 
「だって、何話しているのか
興味があるじゃない」
 
と、わたしの抗弁にも拘らず
母のぐちりは止みません。
 
 
 
孝行息子のわたしですが
 
脇にいる母に分るような
電話のかけ方なんてしていられません。
 
 
わたしには、心にも時間にも
そんなゆとりは無いのです。
「もう書けない!」
 
母がそう言って
突然ペンを置きました。
 
正月が終わって
 
来る人が来てしまい
帰る人が帰ってしまい
 
誰も来ない日が数日続きました。
そんなある晩のことです。
 
8時半になると
 
母はいつものように
日記を書き始めました。

3c25ff14.jpeg 
 平成22年3月8日現在
 母は未だ日記を書いています





だけどペンが進まぬ様子
ただじっと天井を見上げておりました。
 
そして突然
「もう書けない!」と、ペンを置いたのです。
 
「だって私は毎日
何の変化もないのよ。
 
何の進歩も無いの
ただ忘れて行くだけ。
 
私はただ炬燵に座って
人の来るのを待ってるだけ。
 
誰かに頼らなきゃあ
外にだって行けないの。
 
誰も来なけりゃあ
世間話ひとつ出来ないのよ。
 
新聞読んだって、テレビを観たって
何にも頭に入らない。
 
新しい事が
何にも入って来ないのよ。
 
さっき食べた夕飯だって
 
何が出ていたんだか
もう思い出せないのよ。
 
こんな状態で
何を書けばいいの!」
 
母が堰を切ったように
言い募りました。
 
母の焦燥を前にわたしは
 
いつもの軽口をたたく事が
出来ませんでした。
 
わたしはただ
 
「そうだよね」って
言うしかありませんでした。
 
 
 
わたしは母に言われて
改めて母の苦悩に思い至ったのです。
 
言ってよかったのか、悪かったのか
 
わたしには「そうだよね」という
言葉しかありませんでした。
 
だけど、ありがたいことに
 
 
母は言うだけ言うと
またペンを取り上げてくれたのです。
朝起きると
あたり一面銀世界
 
八ケ岳高原に雪が降りました
 
わが家の庭先に
ひっそりと立つお地蔵さんの
 
その頭にも前掛けにも
雪がふんわり積もっていました
 726d4814.jpeg
 
 
 綿帽子をかぶったお地蔵さん






2cdfde55.jpeg

 お地蔵さんにも春が来て







わが家のお地蔵さんは
お地蔵さんとは言っても

ただ
自然石を重ねただけのもの
 
丸い顔には
目も鼻も口も耳もありません
 
だけど
不思議なことに
 
そのお顔には
いつも
笑顔が浮かんでいるのです
母の散髪は毎回
訪問美容師さんにお願いしています。
 
美容師さんは
予約電話一本で訪問してくれるのです。



「私にはもう
食べる事しか能がないのよ。
 
食べる事だきゃ1人前。

だけどもう
他の事は駄目。

何の役にも立たないの」
 
散髪してもらいながら
母が美容師さんに愚痴り始めました。
 
68629ba8.jpeg
 


  気分よく
   
散髪が終わってにっこり



 
 
「もう何の役にも立たないの」
 
と、母にこぼされた美容師さん
間髪を容れず言ってくれました。
 
「何言ってるんですか、乙女さん!
 
私が今日ここへ来れたのは
誰のお陰だと思います?
 
乙女さんのお陰じゃあありませんか!
 
乙女さんのお陰で
私は今日、お仕事を頂いたんですよ」
 
「そうなの?
 
それじゃあ私も
少しは役に立ってるってことなのね」
 
と、母がちょっと嬉しそうに言いました。
 
 
わたしは

『乙女さんのお陰』を連発してくれた
美容師さんの優しさに感謝したのです。
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