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わたしが炬燵で
転寝をしていた時のこと

電話が鳴って
母が受話器を取りました。

「もしもし、乙女です。
どなた?」

と、母が聞きました。

「手の届く介護の宮川です。
息子さんおられますか?」

ボリュームを上げた電話から
ヘルパーさんの声が聞こえます。

だけど
母には聞こえません。

「どなた?

私は耳が遠くて
よく聞こえないんです。

もう少し、大きな声で
言ってもらえませんか?」

と、母が繰り返しました。

「息子さん、おられませんか?」

電話の向こうでも
宮川さんが繰り返しました。

「お母さん!
僕への電話だから、僕が出るよ」

見かねたわたしがそう言って
手を出したのに

母は首を振って
受話器を渡しません。

そればかりか
こう言ったのです。

「ああ宮川さんですか。
息子はいません。

今出かけたところです」

驚いたわたしは
母から受話器をもぎ取って

先ず謝ったのです。

「宮川さん、すいません。

ちょっと
母のスイッチが切れまして」

宮川さんとの
要件を済ませたわたしは

改めて母に聞きました。

「お母さん!

何故、僕がいないなんて
言ったのさ。

僕はいたじゃない。

しかも、僕への
電話だったじゃない!」

「だって折角兄ちゃんが
寝てたんだもの。

寝かせておかなきゃ
可哀想だと思ったのよ」

と、母は
そう澄まして答えました。

母のスイッチは
切れていたどころか

ばっちり入っていたのです。



母心とはほんと
いくつになっても

尽きせぬ愛の泉です。

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「どうしちゃったのかしら?
血の気が失せちゃった!」

わたしが炬燵で
パソコンを打っていると

隣にいた母が
突然言いました。

母の顔を見ると
唇が真っ白。

心なしか
顔色も青白いのです。

母は鏡を見ながら
固まっています。



「どうしたのっ!
何かしたのっ!

気持は悪くないのっ?」

わたしは
焦って問い詰めました。

「気持は悪くないけど
突然こうなったのよ。

唇がごわついて
硬くなっちゃったのよ。

私は何もしていないのに
死ぬのかしら?!」

死の恐怖に震える母が
心細い声で必死に訴えます。

だけど

訴えられたって、わたしは素人。

どうしてそうなったのやら
見当も付きません。

不安な気持で

ただただ母の顔を
見つめるばかりでした。

そして1分。

「もしかしたら」
と、思い付いたのです。

わたしは洗面所へ走り

濡らしたタオルで
母の唇を拭いたのです。

案の定
母の唇には

ファンデーションが
ゴッテリ塗られておりました。

母はルージュのつもりで

なぜかファンデーションを
塗ったのです。

年の瀬が押し詰まった
12月29日

次姉が
ひょっこり遊びに来て

母と妻と4人で
お茶を飲んでいた時の話です。

「私には・・・

もう直ぐ
お迎えが来るんだよね」

と、母が突然言いました。

「そりゃあ楽しみだわね
お母さん!」

次姉が
間髪を容れず言いました。

これで4人、大笑い。

わが家の
笑い仕舞いになりました。

ともすれば

ともしなくても
暗くなりがちな『お迎えの話』

「楽しみだわね、お母さん!」

と、次姉が間髪を容れず
言ってくれて

笑い話になったのです。

あれで
間があいていたら

ちょっと逃げ出したい場面に
なっていたと思います。

次姉のお陰で助かりました。



『お迎え』は
母にとって焦眉の急。

いつ来てもおかしくないと

いつも
母の心に引っかかっているのだ
と、思います。

だけど
可哀相だけど

わたしにはどうしてやることも
出来ないのです。

パソコンを打つわたしの横で
母と長姉が話しています。

「お母さんはいいわね!

100歳超えてるのに
髪が黒くって」

「あなたの方がずっといいわよ。
歳相応なんだから!

いい歳をして黒いなんて
ほんと、恥ずかしいのよ。

私なんて最近
一層黒くなって来たんだもの」

「よく言うわね、お母さん!

そう言うのはね
今にも死にそうな病人に

『あなたはいいわね
ベッドで寝てられて』

って、言うのと
同じようなもんなのよ」

ここで3人、大笑い。



分るかなあ?

長姉の
分ったような分らぬような

このブラック!

長姉は、薄くなった白髪を
ずっと前から染めているのです。

恒例の暮の餅つき

今年も

3女一家が
馳せ参じてくれました。

その餅つきをしていた時の
事です。

「最近、本当に食欲が無いの。
どこか、病気じゃないのかしら」

もち米を蒸かす
かまどの火を守りながら

母が言いました。



確かに母はこのところ
まったく食欲が無いのです。

いつもはわたし達より
よっぽど大食なのに

この2、3日
ほとんど何も食べてません。

好きなお茶でさえ

口元を濡らす程にしか
飲まないのです。

「やっぱりこりゃあ病気だよ
お母さん!」

母の具合が悪いのは
分っています。

だからって

こんな返事をする訳には
いきません。

母だってみんなに
「病気じゃないよ」って

否定してもらいたがって
いるのです。

体のまいっている母を

精神まで
まいらす訳にはいきません。

それで一同
口々に言いました。

「食欲が無いだけなんでしょ!

体のどこも
痛くも痒くもないんでしょ!

そんなら、病気じゃないさ
ただの疲れさ。

そういう事だって
たまにはあるんだよ」

って、そうみんなで否定しました。

すると、母が言ったのです。

「病気じゃないって

それなら
これは老衰ってことなの?!」

101歳の母の言葉に
わたし達は大口をあんぐり。

それから
ちょっと間を置いて

みんなで大笑いしたのです。

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