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母は

八ヶ岳高原南面の家で
独り暮らしをしています。

わたしは富山で
妻と2人暮しをしています。

だからわたしは

片道220キロ
走行時間4時間の独り道を

月に1度か2度
母の元に通っています。



それを知っている友人達には

「同じ道の行ったり来たり
道中退屈だろう」

っと、同情されるのです。

だけど、意外や意外
この4時間

そう捨てた物でもないのです。

お気に入りのCDを聞きながら

移り行く季節を感じながら走る
信濃路は

事の外楽しい物なのです。

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「隣近所に聞いたんだけれど

撮れそうな人が
一人もいないのよ。

兄ちゃんさえいれば

直ぐ
撮ってもらえるんだけどね」

と、母が電話で言って来ました。



実家の庭に

今年も
梅や桜や桃が咲きました。

水仙もヒヤシンスも
チューリップも咲きました。

母はそれを
写真に撮っておきたいのです。

だけど

今まで使っていたカメラは
もうどれも重過ぎて

背の曲がった母には
構える事が出来ません。

でも・・・
やっぱり母は撮りたいのです。

今年の花は今年の花
去年の花とは違います。

多分・・・
誰も見ないのだろうけれど

やっぱり残して置きたいと
母は言うのです。            
 
 「兄ちゃん、便器を取替えたの?」

先日実家に帰ると
開口一番、母が聞きました。

「この前
兄ちゃんが帰った後

夜中に
トイレに行ったらね

便器が急に低くなってて
往生しちゃったの。

便座だって

座りにくくなってて
何か変

本当に
用が足しにくいのよ」

と、母が言いました。

わたしはもちろん
便器など変えていません。

「変えてないよ、昔のまんま」

そう言っても母は

「変わった、変わった」
の一点張り。

「低くなっちゃって

本当に
座りにくくなったんだもの」

と、まるでわたしの所為
みたいに言い張ったのです。

「いよいよ始まったか
被害妄想が!」

と、ドッキリしたわたしです。

「それ程言うんなら分ったよ。

トイレに行って
座って見せてよ。

ズボンは下げなくて
いいからね」

『ズボン
下げられたらどうしよう』

と、思いながらわたしは母と
トイレに行ったのです。

もちろん

トイレは昔のまんま
低くなんかなっていません。

だけど、母は

「ね、やっぱり低いでしょ!」

と、便座に座って見せながら
言い張るのを止めません。

母がどうして
そう思うようになったのか

わたしには全く想像が
つきませんでした。

それで仕方なくわたしは

トイレにもう一本

掴まり棒を
つけてもらいました。

45b82711.jpeg
 つかまり棒を増やしても
  母の誤解は解けません





便座が低いんなら

立ち上がり易くしてやろう
と思ったのです。

それまでも1本
掴まり棒はあったのですが

今度は両手で掴まって
立ったり座ったり

出来るようにしたのです。

「どう、お母さん!

これで立ったり座ったりが
楽になったでしょう!」

これで満足だろうと
わたしは母に聞きました。

「今までだって、立てたのよ」

と、母が無情にも答えました。

「そう言うこと
聞いてんじゃ無いの!

前と今とじゃ

どっちが立ち易いかって
聞いてんの!」

「そりゃあ、今の方がいいわよ。

ただ私は
そんな事までしてもらわなくてもって
思ったのよ」

「じゃあ、最初っから
そう言えばいいじゃない」

「だけどやっぱり

便器が変わったように
思えるのよ!」

こうやって
母とわたしの会話は

すれ違いながら
延々と続きました。



この時のわたしは

母が何故トイレが変ったと
感じていたのか

まったく
想像出来ずにいたのです。 
母の電話

脇筋話が延々続き
本題には一向に入りません。

出かける時間の迫るわたしは
だんだんイライラしてきました。

「だけど、お母さん!

そんな事言う為に

電話をかけて来たんじゃ
ないでしょう。

報告って何さ。
本題言ってよ、本題を!」

ペースの上がらぬ母を
わたしは急かせました。

「いえね。

昨日、知らない人が来て
お経上げてくれたのよ。

三人で、二時間も」

「三人でって
知った人じゃあないの?!

お経上げてくれたんなら
まあ、有難いことだけどね。

お母さんが頼んだんじゃないの?」

状況確認の為
私は探りを入れました。

「いんえぇ
勝手に上がって来たのよ」

「勝手に上がって来たたって

黙って上がって来るわけ
無いでしょ。

お母さんだって他所の家

黙ってなんか
上がんないでしょうが!」

わたしはついつい
詰問口調になりました。

「そりゃあそうよ、上がんないわよ。

だけど

もう上がって来ちゃったんだから
仕方ないでしょ。

しかもその人たち
お赤飯を持ったり

お菓子もたくさん
持って来てくれたのよ」

「なら、良かったじゃない」

「そうなのよ。

昨日は
ほんとに賑やかで良かったわ」

「じゃ、他にも誰かいたの?」

母に
しゃべるだけしゃべらせて

わたしは
再度探りを入れました。

「TさんもMさんもいたわ」

これで分った、分りました。

MさんはR宗教の方

いつも母のことを
気遣ってくれている人です。

「なら、あとのふたりだって

Mさんが
連れて来たんじゃないの?」

「そう言えば、そうかもね。

まあとにかく
昨日は賑やかで楽しかったのよ」

「そりゃあ良かったじゃない!
もう電話切るよ。

ぼかあ出かけなくっちゃ
ならないからね。

じゃあね、切るよ」

ちょっと残酷ですが

わたしは母を急かせて
電話を切りました。



結局

「嫌になっちゃうのよ」
で始まった母の電話は

「賑やかで楽しかったのよ」
で終わりました。

母の報告なんて
いつだってそんなとこ

たいした報告ではありません。

でも、それでいいんです。

わたしにとっては

母が電話できてる
って事が大事

元気でしゃべってる
って事が大事。

特別な報告なんか無くっても
電話くれたっていいんですよ

ねっ、お母さん!!!
「兄ちゃんとこの番号なんか

昨日まで
『そら』で言えてたのよ。

それが
今日は言えないの。

私は1日1日
馬鹿んなっててるのよ」

報告の中身が見えぬまま
愚痴話のやりとりが続きます。

「お母さんは
もうじき100だよ!

電話番号なんて
言えなくて当然じゃない。

100歳にもなって
自分で電話できる人なんて

どこにいるんだよ
いやしないんだよ。

それなのに
お母さんはできる。

立派なもんじゃない。

電話帳のことだってそうさ
見たっていいんだよ。

見ればかけられるんだから
最高じゃない。

考えても見てよ
僕でさえ無いんだよ!

覚えてる番号なんて
僕でさえいくらも無いんだよ。

それだって
昔覚えたものばっかり。

新しい番号なんか
全然覚えられないんだ。

自慢じゃないけどね。

子供んとこのだって
ぼかあ覚えちゃいないんだ。

そんな僕に比べりゃあ
お母さんなんて立派なもん!」

わたしはもう
自棄のやんぱち

思いっ切り
愚痴話に合わせました。

もちろん

『報告』の中身は
知りたいのですが

わたしは何よりも先に

母の気持を
浮揚しなければなりません。

だから
自分の駄目さを引き合いに

口を酸っぱくして母を慰め
褒めまくったのです。



毎度の事ながら

母との電話は
こんな脇筋話の堂々巡り。

本題には一向に入りません。

出かけるわたしは

だんだん
イライラして来るのです。
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