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満102歳になって
 
母は何だか一段と
衰えてきたように感じます。
 
1番弱って来たのが足。
 
わたしが作った可動手摺では
身体を支え切れず
 
ぐらぐらして、危うく
転びそうになるのです。
 
だから
側にいる時には嫌でも
 
トイレに行く母の手を
引いてやるようにしたのです。
 
2番目が耳。
 
面と向き合い
眼を見て話さなければ
 
いくら大声で話しても
聞き取れなくなりました。
 
だから側にいる時には
嫌でも仕事の手を止め
 
母の眼を見て
話すようにしたのです。
 
3番目が目。
 
新聞を読んでも、テレビを観ても
直ぐ目が痛くなるのです。
 
しかも、涙がよく出るので
目尻がただれてくるのです。
 
サンコバをつけたり
クラビットをつけたりすれば
 
一時はいいのだけれど
直ぐまた駄目になるのです。
 
こんな、何もかもが駄目になった
母ですが
 
よろよろしながらでも
 
スリッパを
向こう向きに揃えて脱いだり
 
畳に落ちている綿ゴミを
拾って始末したりするのです。
 
母は何か
 
「雀百まで踊り忘れず」
みたいな、母なんですよ。
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「太郎、太郎!」
 
ベッドで母が呼んでいます。
 
わたしはたった今
母の部屋から居間に戻り
 
やっと
炬燵に座ったばかり。
 
だけど呼ばれた以上
行かない訳にもいかず
 
『またかよ!』
 
っと、うんざりしながら
母の部屋に行ったのです。
 
最近の母は寝ると直ぐ
大した用事も無いのに
 
わたし達見守り隊を
2度も3度も呼び付けます。
 
「今度は一体何なのよ!
下らん事で呼び付けないでよね!」
 
「ちょっとね
 
毛布と掛け布団の位置を
5センチ下げて欲しいのよ」
 
「だって、さっき首が
すうすうするって言うから
 
上げたばっかじゃない」
 
「でも、肩の所が何か重いのよ」
 
「重いったって
下げたらまた、首すうすうするよ。
 
首、すうすうするのと
肩んとこ重いのと、どっちがいいの!
 
どっちがいいか
よく考えてから言ってよね!」
 
「ねえ、掛け布団が
右側にちょっとずれていない?
 
もう1センチ
右側に寄せてくれない?
 
駄目、そんなに押えちゃあ駄目
重くて駄目!」
 
「大丈夫だったら!
 
押さえてもいないし
ずれてもいないったら!
 
もう行くよ、行くからね!」
 
「もう行くの?
まだ何か無いかな?」
 
「全くねえ。
 
下らん事で呼ぶの
止めてくんない?」
 
わたしはそう捨て台詞を残して
毎回居間に戻るのです。
 
母は夜中
独りでトイレに行き
 
布団も自分で掛けているのに
寝る時だけ
 
何だかんだ言って
わたし達を呼び付けるのです。
 
なんだかんだ言いながら
わたしの目を
 
じっと見つめている
母の目を見ると

不憫さで、わたしは
つい苦笑してしまうのです。

「や~まごやのともしびは~・・・」

わたしが
鼻歌を歌い始めると 

一緒に居た母が
キョロキョロし始めました。
 
「どうしたの、お母さん!」
 
わたしは不思議に思って
聞きました。
 
「だって、何だか
上手な歌が聞こえたんだもの」
 
と、母が真顔で答えました。
 
「そりゃあ僕だよ
僕が歌っていたんだよ」
 
「ええっ?ラジオじゃないの!
ほんとに上手だったのに」
 
そんなやり取りの後の
母との会話です。
 
 
 
「私なんてね
 
歌なんかもう
全部忘れちゃった」
 
と、母。
 
「そう言ったって
ハトポッポ位は覚えてんでしょうが」
 
と、わたし。
 
「それはそうだけどね。
 
何でもかんでも
忘れちゃうのが悔しいのよ。
 
馬鹿になっていくのが
ほんと、悔しいのよ」
 
「そう言ったって
ほんとの馬鹿はね、お母さん
 
歌を忘れたことを
忘れちゃうもんなんだよ。
 
お母さんの馬鹿はね
まだ程度のいい方の馬鹿さ」
 
「そんなこと言って褒められても
私はやっぱり辛いのよ」
 
 
 
母の嘆きを聞いても
何もしてやれないわたし。
 
わたしもやっぱり
辛いのです。
「真知子ちゃん!
何、取り越し苦労してるのよ。
 
そんなの、せいぜい10分
我慢すればいい事よ」
 
真知子ちゃんの憂鬱の原因を聞いた
愛子ちゃんが
 
事も無げに断言しました。
 
「真知子ちゃん!
 
何にもやらないうちから
何心配してるのよ!
 
心配する事なんて
何にもないわよ。
 
ウンコされたって
おしっこされたって、何てことないの!
 
後始末なんか
 
最高かけったって
せいぜい10分よ。
 
1日、24時間のうちの
たった10分
 
我慢すれば済むことなのよ。
 
今じゃ
 
紙おむつだってあるし
ビニール手袋だってあるじゃない。
 
全部、使い捨てでしょ!
手を汚す事なんか、全然ないのよ。
 
臭いだって
 
ちょっと、息詰めてたら
どうって事ないもんよ。
 
私なんか
23で結婚して
 
26でお舅さんのオムツ替え
してたのよ。
 
あの頃なんて、全部手洗い
 
オムツ替えだって
全部素手でやってたのよ。
 
しかもよ!
 
私なんか
 
お舅さんがやっと終わったと思ったら
続いてお姑さんだったんだから。
 
こんな私に比べりゃあ
真知子ちゃんなんか
 
天国みたいな生活
してたじゃない。
 
今日の今日まで、自由に
十分楽しんで来たじゃない
 
そりゃあ
私だって言いたかったわよ。
 
愚痴言えるんなら
 
『何で私なの?
これが私の結婚生活なの!』ってね。
 
でもね、終わってみれば
どうって事なかったのよ。
 
『廻り順番』って言葉があるけれど
その通りだと思うのよ。
 
看てやっといてよかった。
 
ちゃんと看といてよかったって
今思ってるのよ」
 
この、愛子ちゃんの言葉に
圧倒されたのかどうか
 
真知子ちゃんは嬉しくも
 
「考えてみれば
ホント、そうなのよね」
 
 
と、思い直したように
言ったのです。
「私、最近憂鬱なの」
 
友人達との飲み会で
親の介護話をしていた時のこと
 
ちょっと神経質な真知子ちゃんが
言いました。
 
「お姑さんが
漏らす様になったらって
 
私、考えるだけで
嫌んなるのよ。
 
ボケたら
 
うんちだって、おしっこだって
あちこち擦り付けるって言うでしょ。
 
そんなお姑さんを
追っ掛け回して
 
後始末、し歩かなけりゃあ
なんないなんて
 
私、そんな毎日
想像しただけで憂鬱になるのよ」
 
と、真知子ちゃんが
眉間に皺を寄せて言ったのです。
 
真知子ちゃんは
旦那さんの退職を機に
 
最近
お姑さんとの同居を始めました。
 
真知子ちゃんはそれまで
 
お姑さんから遠く離れて気楽に
核家族で暮らしていたのです。
 
だから
 
止むを得ないと言えば
止むを得ないのですが
 
お年寄りの
何たるかを知らないし
 
年に何回かの
行き来しかなかったお姑さんに
 
特別、愛情を
抱いているわけでもありません。
 
跡取り息子の嫁として
 
止むを得ずの同居
止むを得ずのお世話です。
 
だから
仲間から聞いたお年寄りの
 
 
「お漏らし」のことを
やる前から心配しているのです。
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