忍者ブログ
[69]  [70]  [71]  [72]  [73]  [74]  [75]  [76]  [77]  [78]  [79
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

「飛来さん!

僕の言う事じゃあ
ないかも知れませんが

もうそろそろ

お母さんと
同居されたらどうですか。

100歳で独り暮らしだって
聞いて

僕は驚いているんですよ」

ナースセンターで会った
主治医は

開口一番
わたしに言ったのです。

「病気の方は
大した事は無いと思います。

念の為、明日
CTと血液検査をやって見ますが

意識ももう
はっきりしているし

単なる意識消失発作。

まあ言って見れば

立ち眩みの様なもんだ
と、思います」

「あなたにだってあるでしょ。

急に立ち上がったり
下痢したりした時

ふらふらっとした事が。

あれですよ、あれ。

お母さんが倒れた時の状況は
聞いていませんが

多分
間違い無いと思います」

「そりゃあ良かった!
安心しました。

先生
どうもありがとうございます。

だけど先生!

脳血栓か何か
起こってたんじゃないですかね。

その詰りが取れたって事は
考えられませんかね」

わたしは
道中考え続けて来た病名を

主治医に
ぶっつけたのです。

「脳血栓なら
意識は飛びませんよ。

どっかに
痺れが出るのが普通です。

まあそれより、もうそろそろ

同居を考えられたら
どうですかね。

こういう事は

これからしょっちゅう
起こるようになりますよ」

主治医は病気より

母の独り暮らしに
重点を置いて

診断してくれたのです。

PR

6時半に出発した
わたしは

250キロの道を
一気に走り

10時半に
病院に着きました。

諏訪湖SAでかけた
電話で

母の意識が戻ったことや

入院先が
隣町の市立病院に変ったことを

知っていました。

それでも

母の元へと
はやる気持は変りません。

確認を取る守衛の電話も
もどかしく

ともかく
救急外来の鍵を開けてもらい

薄暗い廊下を走って
母の病室を訪ねたのです。



母は
薄暗くしたベッドの上で

点滴を受けながら
静かに眠っておりました。

そしてそこには
思いもかけず

従兄弟夫婦が付き添っていて
くれたのです。

しかも、分家の親子まで
付き添っていてくれたのです。

聞けばヘルパーさんも
さっきまで

いてくれたと言うのです。

母は一人ではなかった。
みんなに見守られていた。

わたしは

母が穏やかに眠っていた事も
嬉しかったけれど

みんなが
見守っていてくれたことが

本当に嬉しかった。

「遠い親戚より近くの他人」

そんな言葉もあるけれど

「遠くて近い親戚」も本当に有難い
と、心底思ったのです。

そしてわたしは

軽い寝息を立てる母を見ながら
母の強運に期待したのです。

わたしは毎日

朝昼晩と
少なくとも3回以上

母に電話をしています。

その間を狙って
3女や真正4女が電話をして

体調を
チェックしているのです。

今日だって同じ。

朝の8時半には

化粧は終わったかと
電話をかけ

1時半には

昼ご飯の味はどうだったか
と、聞き

3時には

「久し振りに
悦子さんから電話があってね。

会いたいわね
会いたいわねと言い合ったの」

と、聞いていたのです。



『あんなに元気だったのに
何故だ!』

だから

『母が倒れた』という知らせは
まさに青天の霹靂。

思いも寄らないこと
だったのです。

とうとう、その時が来た。

「絶対、飛ばさないで!

お母さんの事は
もう

病院に任せるしかないんだから」

芽衣子には
そう言われてはいたけれど

わたしは焦る気持で
車を飛ばしました。

道中、頭に浮かぶは
ただ母のこと。

しわくちゃだったけれど
明るかった母の顔

優しかったけれど
怒ると怖かった母の顔

曲った背中で
よちよち歩いた母の姿

ハイヒールで颯爽と
姿よく外出した母の姿

「もっと食べて、もっと食べて」

と、稲荷寿司を作ってくれた
少年の日々の事。

妹を泣かせ

追っかけ回された
幼かった日々の事。

そして

薄暗い病室

見守る人もなく
独り寂しく横たわる母の姿。



わたしは

父の死に
立ち会えなかった男です。

思う事は全部過去形。

「間に合わないかも知れない」

当然のように
わたしは

母との別れを
想像していたのです。

「お晴!
お母さんが倒れた。

芽衣子を呼び出してくれ!」

わたしは支度をしながら
妻に電話を頼みました。

「芽衣子!
お母さんが倒れた。

僕は直ぐ走るから
姉妹に知らせてくれ。

入院先や病状は

ヘルパーさんの会社と
連絡を取ってくれ。

それと

全ての情報が

芽衣子に集まるように
しといてくれ。

途中で電話を入れるから」

わたしはそれだけ決めて

6時半に家を飛び出し
山梨へと走りだしたのです。

<< 前のページ 次のページ >>
カレンダー
04 2025/05 06
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
ブログ内検索
忍者ブログ [PR]