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「太郎、太郎!」 

と、居間で母が呼んでます。
 
わたしは仕事の手を止め
母の所へ行きました。
 
「ぼかあ今
仕事、乗ってんだからね。

邪魔しないでよ!
 
いったい何なのさ?」
 
と、言わないでもいいことを
先に言いながら聞くと
 
「お茶を飲みたいのよ」
 
と母が答えました。
 
孝行息子のわたしは
 
いつものように舌禍を
少し反省しながらお茶を入れ
 
いつものように
仕事に戻ろうとしました。
 
すると、母が言ったのです。
 
「私はね、何も
独りで飲みたい訳じゃあないのよ。
 
兄ちゃんと2人で飲みたいの。
 
駄菓子でも食べながら
ゆっくり話がしたいのよ」って。
 
わたしはそれを聞いて
 
『それもそうだよな』
っと、思い直したのです。
 
仕事より
母との時間の方が大切。
 
それでわたしは
仕事へと焦る気持を押え付け
 
じっくり座り込んで
母の話し相手をしたのです。
 
 
 
じっくりと言っても
たった10分のこと
 
長い人生の中で
取り戻せない時間じゃあありません。
 
『これが直に思い出になるんだよな』
 
と、思いながら
わたしはリップサービスしたのです。
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「太郎!太郎!」 

とある夜中、わたしは
母の呼ぶ声で目を覚ましました。
 
『何かあったか!』
 
と、わたしは眠い目をこすりながら
母の部屋に行きました。
 
ところが、母は熟睡中
微動だにせず、眠っておりました。
 
わたしは寝ぼけて
母の所へ行ったのです。
 
 
 
母に比べて
途方も無く若いわたしが
 
寝ぼけたのです。
 
101才を超えた母に
何にも無い訳がありません。
 
多少の混乱があっても
止むを得ないことなのです。
 
だから
 
最近のわたしは出来るだけ
母に逆らわないようにしています。
 
「もう1人はどうしたの?
 
一緒に行った
もう1人の男の人」
 
と、ショッピングから帰ったわたしに
母が今日も聞きました。
 
「ああ、Nね
東京へ帰るんだってさ。
 
だから、途中で別れたんだよ」
 
と、わたしは母に調子を合わせて
答えました。
 
何、寝惚けたこと
言ってんのよ!

ぼかあ、最初っから1人!
 
お母さんは僕が
一体誰と行ったと思ってるのさ」
  
なんて言って
追い討ちをかけるのを止めました。
 
そんな事をしていたずらに
 
母を混乱させる愚に
やっと気付いたのです。
 
『嘘も方便』の正しい使い方を
少し理解したのです。

ある日
わたしが母の部屋に行くと 

昼日中だと言うのに
着替えの真っ最中。
 
「あれ!
お母さん何してるのよ!
 
どうして、こんな時間に
着替えなんかしているのよ!」
  
『お漏らししたんじゃないか』

と、わたしはちょっと
母を疑いながら聞きました。
 
こんな疑いを持つなんて
おかしいなとお思いでしょうが・・・
 
だけど、母はもう101歳
 
いつそういうことがあっても
少しもおかしくない歳。
 
だから皆さんには
分っていて欲しいのだけれど
 
わたしにお漏らしを
攻めたりする気は毛頭ありません。
 
わたしはただただ事実を確認し
対応したかっただけのことなのです。
 
「いえね。
 
私がトイレから出ようとしたら
誰かが後ろから水をかけたのよ。
 
お陰で下着がびしょびしょ。
 
誰だか知らないけれど
 
誰かがトイレに入って来て
水をかけたのよ。
 
誰だか分らなくて
何か、気味が悪いのよ!」
 
この前とまったく同じ言い方
 
母が『誰か』に力を込めて
言いました。
 
「お漏らしなんかしたんじゃない!」
と、母は暗に強調したのです。
 
「誰かたって、この家には
お母さんと僕と2人だけ。
 
ぼかあトイレなんか行ってないし
他にゃあ誰もいないんだよ。
 
お母さんが入っているのに
誰かが入って来る訳無いんだよ。
 
お母さん!
ほんとにそんな人見たの?」
 
「いんええ。
 
そりゃあ見ちゃあいないわよ
後ろからだもの、当然見えないわよ。
 
だけど、それなら一体誰が
私に水かけたのよ。
 
誰か、私が入る前から
入ってたんじゃないのかしら」
 
こんなやり取りをしながら
わたしは、また言ったのです。
 
08af197f.jpeg 「お母さん!
 
 立つ時、便座の横の
 スイッチバーにつかまったんじゃないの?
 
 それで、洗浄ボタン
 押しちゃったんじゃないの?」
 
「そんな事は無いわよ!
 
私はちゃんと
掴まり棒につかまって立ったわよ」
 
と、母は「自分にミスは無い」と
強弁し続けたのです。
 
それで、わたしは
 
「そうかあ、じゃあ誰かなあ」
 
と、舌戦から撤退したのです。
 
 
 
だけど、こんな事が
こう何度も起こっては大変。
 
5d6bffcf.jpeg それでわたしはこれを機に
 スイッチバーを改造しました。
 
 ボタン用の穴あきプレートを作って
 スイッチバーに貼り付け
 
 手をついても
洗浄ボタンを押さないようにしたのです。
 
母の言うことを信じなかったという
問題は残っているけれど
 
『停止ボタンを押さずに立ち上がったら
やっぱり濡らしちまう』
 
って問題も
そりゃあ未だ残っているけれど
 
ひとまずこれで
様子を見ることにしたのです。

「お母様!
どうかしましたか、お母様!」 

夜中の2時
妻の叫び声で目が覚めました。
 
わたしは12時に寝たばかり
意識朦朧状態です。
 
それでも眠い目をこすりながら
母の部屋に飛んで行くと
 
着替えを手伝ってもらいながら
母がぼそぼそ説明しています。
 
「トイレが終わって
立ち上がろうとしたら
 
誰かが私に水をかけたのよ。
お陰で、パジャマや下着がびしょびしょ。
 
ともかく着替えなきゃあって
 
それで
箪笥の所へ行こうとしてたのよ。
 
みんなを起しちゃってごめんね。
 
でも最近
こういうことがよくあるのよ。
 
誰か、たまに来た人が
私に水をかけるのよ」
 
「たまに来た人って誰さ。
お母さんはその人見たの?」
 
と、わたしも話に割って入り
尋問します。
 
「見てやしないわよ。
 
下着が濡れて困っているんだもの
そんな余裕無いわよ」
 
「でもね、お母さん!
 
今、この家にいるのはお母さんと
僕とお晴の3人だけ。
 
水かける人なんか誰も
いないんだよ。
 
僕の想像だけどね
お母さんが立つ時

多分、
お尻の洗浄ボタン
押しちゃったんだと思うのよ」
 
「そんなとこ押さないわよ。
多分私の次に入った人が押したのよ」
 
と、第4の人物の存在を
信じ切っている母を説得するのは
 
どうにも難しそう。
 
それで仕方なく
 
「今トイレへ行って
今度から水かけないように注意しとくよ」
 
っと、話を切ったのです。
 
 
 
母の腰は極端に曲っています。
 
だから立ったり座ったりが大変
ズボンやパンツの上げ下げも大変。
 
時にはふらっとして
 
ボタンに手を置いてしまうことも
あると思うのです。

そんな訳で
 
何か手を打たなけりゃあと 
手探りを始めたわたしですが

なかなか名案が浮かばないのです。
連休が終わると
 
遊びに来ていただれかれが
帰ってしまい
 
わが家は母と妻とわたしの
3人家族に戻りました。
 
そんなある日の母の日記です。
 
 
 
ミノン一家が帰ってしまい
家の中が又、寂しくなった。
 
だけど

何だか未だ誰か1人くらい
いる様な気がして太郎に聞くと
 
「お母さんとお晴と僕の3人だけだよ」
と、言うのだけれど
 
やっぱり未だ
他にいるような気がして聞き直してしまう。
 
どうしてなんだろ
不思議でならない、この変な気持。
 
 
 
そうなんです。
 
最近の母は
自分でも書いてるように
 
何だか分らない不思議な境地に
時々入り込みます。
 
母はそこにはいない誰かを
時々感じるのです。
 
ミノン一家が帰った後もそう
ナコちゃんが帰った後もそう。
 
「お勝手にいるのはミノンたちなの?」
 
と、誰もいないお勝手に
ミノンたちがまだいるように感じたり
 
「太郎の隣にいるのはナコちゃんなの?」
 
と、誰もいないわたしの横に
ナコちゃんが見えたりするのです。
 
「ナコちゃんなんて
どこにもいないじゃない!
 
ここには僕とお母さん以外
誰もいないよ。
 
お母さんには
一体誰が見えてるのよ?!」
 
と、聞くと
 
「それがはっきりしないのよ。
でも、やっぱり
誰かいるような気がするのよ」
 
と、言うのです。
 
 
 
ピカソのキュビズム
いろんな視点から見た形を
 
1つの画面にとり入れて
描く手法ですが
 
母の場合も
それにちょっと似ています。
 
過去の場面を
今現在の場面に重ねて
 
見たり感じたりしているように
わたしには思えるのです。
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