平成二十年元旦

新年明けまして
おめでとうございます。

本年もどうぞよろしく
お願いいたします。



平成二十年元旦の山梨は
快晴。

わたしは今
わが故郷、大泉町にいます。

大泉町は
八ヶ岳南面中腹の町。

南東に茅が岳を望み
西に南アルプス

甲府盆地越しに
富士山を望む町です。

わたしは今年

多分生まれて初めて
元旦の日の出を見に外に出ました。


　甲府盆地越しに
　　　早暁の富士山を望む





　茅が岳から昇る初日






そして

寒さに震えながら
次第に姿を現す早暁の富士山と

茅が岳の山頂から昇る
初日を見たのです。

それは

このわたしでさえ

思わず手を合わせてしまうほど
美しく神々しいものでした。

年のせいもあってか

わたしは本当に
心が洗われる気がしたのです。

もう駄目

「もう駄目！
何にも出来なくなっちゃった」

母は時々
暗い声で弱音を吐きます。

「何言ってるの、お母さん！

９９歳にもなって

ちゃんと
一人暮らししてるじゃない。

体操だってやってるし
新聞だって読んでるし・・・

そう言うと
みんなびっくりするんだからね」

母が弱音を吐く度

わたしは
そう言って励ますのです。

言われて母は

「そうかしら、いい方かしら？」

そう疑問符を付けながらも
もうにっこにこ

いつもの
陽気な母に戻るのです。



「もう駄目」
と、口では言いながら

母はみんなに

「まだ大丈夫だ」
と、言って欲しいのです。

「そんなことないよ」
と、否定して欲しいのです。

母がいてこそ

「何の役にも立てなくて・・・」

母は時々
自分を恥じるように嘆きます。

そんな時
わたしは決まって言うのです。

「何言ってるの、お母さん！
いてくれるだけでいいんだよ。

お母さんがいるからこそ
一族がまとまるんだからね。

お母さんが
いなくなったら

新年会だって
誰も来やしないんだから」



「いてくれるだけでいいんだよ」

こんな言葉が

母の気持ちを
軽くさせるかどうかは

分かりません。

だけど
本当のところ

一族みんなが
母を必要としているのです。

一族は今現在

孫、ひ孫に自称四女まで入れて
総勢３９人。

この大世帯が毎年正月

一堂に会せるのは
母がいるからこそなのです。

だからわたしは
母に

自信と誇りをもって
生き続けて欲しいのです。

弱音

「何もかも
出来なくなっちゃって・・・」

新聞を見るのを止めた母が
ため息をついて、弱音を吐きました。

「ため息をつくなんて
お母さんらしくないじゃない！」

そう応えたわたしですが
母の気分を盛り上げたくて

いつもの褒め言葉を
続けました。

「お母さんねえ

お母さんのこと
みんなが感心してんだよ。

お母さんみたいな
年の取り方をしたいって

世間の人
みんなが言ってんだからね。

みんながお母さんのこと
目標にしてんだから

みんなの為にも
頑張らなくっちゃあ！」

わたしは
いつものように

『世間のみんな』を引っ張り出して
励ましたのです。

ところが

「かんしんしてるって
寒い方の寒心じゃないの？」

母が突然
突っかかって来たのです。

母が自分から
突っかかってくるなんて

かつてないこと。

ちょっとびっくりした
わたしですが

そこはそれ年の功
間髪を入れず反撃したのです。

「あれえっ！

お母さんって

そんな
ひがんだ事を言う人だったんだ！

みんなに
教えてあげなけりゃあ」

わたしは
そう脅しをかけたのです。

母はわたしのこの言葉で
口をつぐみました。

『世間のみんな』に弱い
母のこと

これで一件落着と
わたしは思っておりました。

だけどしばらくして
母がポツンと言いました。

「でもね。

弱音を吐くとね
少し気が楽になるのよ」

母がそうぽつんと言ったのです。



やっぱり
母は無理して頑張っています。

無理しながらも、衰えて行く不安と
必死に戦っているのです。

励ます言葉を持たない
わたしは哀しいかな

ただ見守っているしか
ないのです。

信濃路

   












信濃路の初冬


それは北アルプス連峰の雪


たわわに実った南天の実


取り残された柿の実


そして


すがすがしい青空