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一生園に行くとわたしは
母との会話の合間に
 
姉妹にメールを送ります。
 
それはわたしの退屈しのぎになったり
母の近況報告になったり
 
情報交換の場になったりします。
 
 
 
『さっき食堂で
 
お母さんと
プリン食べてるとね
 
隣のテーブルでひとり待っていた
女性んとこへ
 
「お待たせしました!」って
介護士さんが
 
車椅子に乗せた彼女のお母さんを
連れて来たんだ。
 
「トイレに行きたいよう」
 
食堂へ来るなりというか
テーブルんとこへ来る間中もと言うか
 
テーブルんとこへ来てからもずっとというか
お母さんは看護士さんに
 
「トイレ行きたいよう」って
何度も何度も訴え続けていたんだよ。
 
娘さんなんかまったく
眼中にないって様子だった。
 
感動の再会を期待して来た筈の
娘さんは可哀そうに
 
完全に無視されてた。
 
「大丈夫ですよ。
さっき行って来たばかりですからね
 
しばらく行かなくても
大丈夫ですよ」
 
と、お母さんに半分娘さんに半分
何度も言って
 
介護士さんはそのまま
出て行っちまった。
 
「お母さん、ごめんね。
この前来てから2週間半も経っちゃった。
 
もうちょっと早く来なけりゃあって
思ってたんだけどね
 
なかなか来られなかった。
でも、会いたかったあ!
 
お母さんも
会いたかったでしょお?」
 
「会いたかった。
トイレ行きたいよう!」
 
お母さんは一応
「会いたかった」と言った後で
 
また直ぐトイレを訴えたんだ。
 
お母さんにとっちゃあそん時
トイレが最大の関心事
 
娘さんとの
嬉しい再会どころじゃなかったんだ。
 
「お母さん!
トイレ行きたいの?
 
でもね、介護士さんが
 
さっき言ってたじゃない
行って来たばかりだって。
 
だから大丈夫よ
行かなくっても」
 
そう説得されてもお母さんは
やっぱり「トイレ、トイレ」の繰り返し。
 
「それよか、お母さんこれ見てみて
もう秋でしょ!
 
だから、松ぼっくり拾って来たのよ
ドングリも。
 
お母さん、覚えてるでしょ?
昔、ヤジロベー作ったじゃない」
 
娘さんがそう
気を逸らすように言っても
 
お母さんはまったくの上の空。
 
「うん、覚えてる。
トイレ行きたいよう、もう漏れそうなのよ」
 
の一点張り。
 
「弱ったなあ、お母さん。
 
私ねえ
肩痛めちゃってるでしょ。
 
だから、お母さんを連れてっても
支えられないのよ。
 
ねえ、お母さん
ちょっと、外見てみてよ。
 
もう秋よ、空が真っ青でしょ
今外じゃ紅葉がまっさかり。
 
だからこれ
落ち葉も拾ってきたのよ。
 
見てみてこれ
きれいでしょ!
 
お母さんは家の中ばかりいるから
見せようと思って拾って来たのよ」
 
娘さんが再三再四そう言って
 
手を変え品を変え必死に
気を逸らそうとしたのだけれど
 
可哀そうに
 
お母さんはトイレのことで
やっぱり頭がいっぱい。
 
松ぼっくりにも、どんぐりにも
青空にも落ち葉にも、一向に反応しなかった。
 
「そうだ!お母さん!
 
おむつでやっていわよ
その為のおむつだもの。
 
ね、お母さんそうでしょ
そのためのおむつだもんね。
 
だからおむつで
おむつで何とかやってもらえない?
 
駄目?
やっぱり駄目?
 
そうかあ、弱ったなあ
やっぱり行くしかないかあ!
 
そうかあ」
 
娘さんは最後にそう言って
意を決しったように立ち上がり
 
お母さんの車椅子押して
食堂出て行ったよ。
 
僕はこの親子の会話聞いてて
ほんと辛かった。
 
僕にゃあ分かるんだ、娘さんの気持ち
みんなも覚えあるだろ?
 
他人事じゃあないんだ
こういうのって』

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