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母はどちらかと言うと温厚な人。
 
他人に不機嫌な顔を見せることは
ほとんどありません。
 
そんな母が先日、突然
不機嫌な顔をして黙り込みました。
 
母とわたしは近所の奥さんと3人
キッチンで四方山話をしておりました。
 
そこへ、数日前に壊れたメーターを直しに
業者さんが来てくれました。
 
「こんちわ、ガス屋です」
 
玄関で業者さんが声をかけたので
わたしはキッチンへ通しました。
 
業者さんに仕事を始めてもらって
わたしが話の輪に戻ると
 
母が不機嫌な顔をして黙り込んでいたのです。
 
「お母さん、どうしたの?!」
 
わたしが何度も聞くと、母が渋々答えました。
 
「だってあの人、私を無視したんだもの・・・
挨拶をしなかった」
 
キッチンへ入る時
業者さんが母に挨拶したかどうか
 
わたしは気にも留めていませんでした。
 
でも考えてみれば、ここは母のお城
 
母の了解なしに
人っ子一人通してはならないのです。
 
黙って通すことは
 
家を守って一人暮らしをしている母の
プライドを傷つけること。
 
それなのにわたしは、メーターを
直してもらうことだけを考えていたのです。
 
「あんたが挨拶しなかったから
お袋がむくれているよ」
 
仕事の終わった業者さんに
わたしは声をかけました。
 
「そりゃあ奥さん、すいませんでした。
 
気がつきませんで
失礼なことをしてしまいました」
 
業者さんは気持ちのいい人で
素直に謝ってくれたのです。
 
お陰で、母の機嫌も直りました。
 
でも、もしかしたら・・・
 
業者さんは部屋に入る時
声をかけていたのかもしれません。
 
母に聞こえなかっただけ
なのかも知れません。
 
それでみんなが帰った後
母に言いました。
 
「お母さん、これからはね
 
こんにちわって
自分の方から声をかけりゃあいいんだよ。
 
相手が気が付くまで、でっかい声で
呼びかけりゃあいいんだよ。
 
自分から閉じこもっちゃあ駄目なんだよ」って。
 
だけど、落ち着いて考えてみると・・・
 
わたし自身が試されていたんだ
と、気が付いたのです。
 
母には
 
玄関で業者さんが声をかけたことも
わたしが話の輪から離れた理由も
 
業者さんがキッチンに入って来た理由も
分かっていなかったんだと思えてきたのです。
 
母に限らず耳の遠いお年寄りは
 
それでなくても
疎外感の中で生きておられると思います。
 
周りにいるわたし達が頑張って
説明しなくて誰が説明するというのか!
 
そんなことを
改めて気付かされたわたしです。
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「はい!どなた?
 
私は耳が遠いから聞こえないのよ。
こっちへ上がって来てくれませんか?」
 
わたしが2階で転寝をしていると
突然1階の居間から母の声が聞こえました。
 
だけど、誰も来た様子はありません。
 
ただ耳を澄ますと、母の声の後ろに
市の防災無線が鳴っていました。
 
「ゆうやけこやけで日が暮れて~・・・
子供達が学校から帰る時間になりました。
 
子供達が安全に帰れるように
市民の皆様、見守りをお願いいたします。
 
お~ててつないで皆帰ろう~・・・」
 
母が住む町では、夕方4時になると
決まってこの放送を流します。
 
母は防災無線に返事をしていたのです。
「どうして、こんな暗い家になっちゃったのよ!
ゲホゲホ、ゴホゴホ」
 
「一緒にご飯を食べていたって
だれひとり話をしない。
 
何で、私までしゃべっちゃいけないのよ!!!
ゼイゼイ、ゲホゴホ」
 
「3人いたって
みんながそっぽを向いて食べている。
 
どうしてこんな寂しい家になっちゃったの!
ゲホゲホ、ゼイゼイ」
 
「へ~え!
 
兄ちゃんたちゃ富山でも、そっぽ向いて食べてるの!
ゼイゼイ、ゲホゴホ」
 
夕ご飯の最中
母がそう言って、突然怒り出したのです。
 
この時の母は
一週間前にひいた風邪をこじらせていました。
 
鼻は出るし、咳は出るし
痰は絡むし、大変な状態。
 
それを知ったわたし達夫婦は、看病のため
実家に飛び帰っていたのです。
 
母は一人暮らし。
 
当然ながら
いつも、一人で食事をしています。
 
だからこの時、風邪は重かったけれど
折角側にいるのだからと
 
妻と三人で食卓に向かっていたのです。
 
母一人だけ、ベッドで食べさせるのは
可哀想だったからです。
 
でも、誤嚥が進んでいる上に
風邪を引いた母の食事は大変。
 
一口食べては「ゴホゴホ」
ちょっとしゃべっては「ゲホゲホ」。
 
風邪と誤嚥が重なり合って
間断なく咳き込むのです。
 
咳き込んだ後の母は「ゼイゼイハアハア」
もう息も絶え絶え
 
赤く充血して涙の浮かんだ目を固く閉じ
苦虫を噛み潰した悪鬼の形相
 
その苦しそうな事と言ったらありません。
 
そんな母を
孝行息子のわたしは見ていられません。
 
だからわたしは
 
母がしゃべり出すとそのたんび
口に指を当てて制したのです。
 
しゃべれば
「ゲホゲホ、ゴホゴホ、ゼイゼイハアハア」
 
だから
しゃべらす訳には行かなかったのです。
 
それに、本音を言えばです。
 
咳き込む母との食事は
わたし達にとったって大変なこと。
 
唾が飛ばないか、痰が飛ばないか
ご飯粒が飛ばないか
 
気が気でなかったのです。
 
それでわたしは
 
自分の皿を母から出来るだけ遠ざけて置き
背中を半ば母に向け食事をしていたのです。
 
わたしの向かいに座っていた妻だって
同じ気持ち
 
同じことをしたのです。
 
そんな食事が何日も続いた夕ご飯の最中です
母が突然怒り出したのは。
 
考えてみりゃあ
母が怒り出すのももっともな図柄です。
 
自分の左右に座った息子と嫁は互いに背を向け合い
自分にだって背を向けている。
 
お互い目も合わさず、話もしない
自分にだって話しかけもしない。
 
そんな雰囲気を何とかしようと話し出すたんび
息子に厳しい顔で止められる。
 
そんな食事が度重なって
母はとうとう怒り出してしまったのです。
 
だけど、最初の内は
母にだって分っていた筈なんです
 
しゃべるのを止められた理由。
 
初めは母だって
「ニヤッ」っと笑ってうなずいていたのです。
 
それに
 
わたし達が母に背中を向けている理由だって
ちょっと考えれば分ること。
 
自分の皿に
 
咳と一緒に他人の唾やご飯粒が
飛び込むのは誰だって嫌なんです。
 
母だって、同じことをわたしがやれば
嫌な筈なんです。
 
もちろん、わたしと妻とは
話だってしていました。
 
だけど、話に母を巻き込んで
咳をさせるのは可哀想
 
そう思って、わたしたちは
背を向けたまま話をしていたのです。
 
耳の遠い母には、それが
聞こえなかっただけの話なのです。
 
あ~あ!
一体どうすりゃあ良かったのか。
 
わたしは妻とふたり、ため息をついたのです。

「またまた大事件!
お母様がねえ・・・・」
 
母の所に行っている妻が
妙にはしゃいだ声で電話をかけて来ました。
 
「またまたって、いったい何さ」
 
わたしは「またまたトラブルかよ」
と、少し身構えて聞きました。
 
「お母様が何ていったと思う?
献体しようかって言ったのよ。
 
私は100歳になってもこんなに食欲あるのだから
どこか他人と違った機能が備わっていると思うのよ。
 
だから解剖して研究してもらえば
最後のお役に立てると思う。
 
お母様ったら、そう言うのよ」
 
「あちゃあ、献体ってか!」
 
わたしはしばらく
開いた口がふさがりませんでした。
 
そりゃあ、わたしのふたりの子供は
 
献体のお世話になって
現在の職業(医者)を得ています。
 
甥姪まで入れれば、5人が
献体のお世話になっているのです。
 
だからわたしも、献体の尊さや必要な事は
よく分かっているつもりです。
 
だけどまさか、選りにも選って
母が献体を言い出すとは!
 
わたしは技術屋とは言え
人一倍感情で生きている男です。
 
必要なことと分ってはいても
いざわが母がとなると
 
果たして賛成できるかどうか。
 
その時になってみなきゃ
自分の気持が分らないのです。

昨日、久し振りに

母と庭に出て
花を眺めました。

「東風吹かば匂ひをこせよ梅の花
主無しとて春な忘れそ」

菅原道真の
こんな歌を思い出す

花日和だったです。

047268f9.jpeg
 母と西洋オダマキ
 このオダマキは10年前
 わたしの長男がヨーロッパ土産に
 持ってきた物
 母は大事に育ててきたのです

 




母は永年、たくさんの花々を愛で
育てて来ました。
 
だけど今はもう、それが出来ません。
 
たまにわたしと庭に出て
咲いた花を眺めるだけになりました。
 
膝も腰ももう
立つのがやっとの状態になって来たのです。
 
「いつか・・・
また、草取りが出来るかしら・・・」
 
花を見ながら、母が
いつものようにわたしに聞きました。
 
「大丈夫さ、膝さえ直りゃあまた取れるさ」
 
わたしもまた、いつものように
そう言って応え
 
「そうよね、膝さえ直ればね」
 
母もそう言って、「いつか」に
いつものように期待をかけたのです。
 
母が花の世話ができなくなって
数年が経ちました。
 
だけど、花たちは今年もまた次々に
うつくしい花を咲かせてくれています。
 
まるで、母の
 
永年の面倒見に応えるように
咲かせてくれているのです。
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