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車での長距離移動

母が時々
車酔いするようになりました。



「ウッ!」

突然母が
前かがみになって口を押さえます。

「お母さん、大丈夫?

車止めるから
ちょっと待っててね。

もうちょっとだからね
我慢しててね!

もう直ぐだよ
今止めるからね!」

そう言って励ましても

高速を走っている時など
車は直ぐに止められません。

「もう直ぐ」が
「もう直ぐ」じゃないんです。

「今止めるからね!」が
「今」じゃないんです。

だけど

母は厳しい作法を教え込まれた
明治の女。

一度口に入れた物は決して出すなと
躾けられているのです。

だから
吐物も絶対出しません。

飲み込んでいるのか
それとも
口に含んだままなのか

ともかく口から出しません。

母は

わたしの励ましに
いちいちうなづきながら

ぐっと我慢
絶対口から出さないのです。



そんなことが何度かあって
わたしは運転席に

ナイロン袋を置いておくように
なったのです。

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「母との移動は、もっぱら車」

とは言っても

最近の母にとっては
それはそれでまた大変なこと。

富山に来る
山梨に帰る

片道220km
ノンストップで走って3時間半

この3時間半が悲しいかな
また試練の時

母が車酔いするように
なったのです。



何にでも興味を持つ母は

車に乗っている間中
ずうっと外を眺めています。

助手席に座って
曲り縮んだ背中を必死に伸ばし

前を見たり横を見たり

目まぐるしく移り変わる風景を
いちいち追っているのです。

「お母さん!
外ばかり見てると疲れるよ。

少し眠った方がいいよ!!
リクライニング倒すから・・・」

そう言って

わたしがしきりに勧めるのに
母は一向に応じません。

「これが見納めかもしれないからね。
見ていたいのよ」

毎度、同じことを言いながら
強情に見続けるのです。



そのあげく

母は疲れ切り
着いた時にはもうぐったり。

お茶も飲まずに
ベッドに直行する有様。

酷い時には・・・車酔い

途中で吐いてしまうことも
あるのです。

「だから、言ったでしょ!!
外なんか見ないで、寝てなって!!!

自業自得だよ、全く!」

わたしは

吐いている
母の背中を撫でながら

文句を言うのです。

だけど
いっつも後の祭りなのです。

わたしは最近

母との移動に
電車を使いません。

もっぱら車を使っています。

数年前

母と「特急あずさ」で
上京した時のことです。

わたし達は
山手線に乗り換えるために

数100mに及ぶ

それこそ半死半生の
行軍をしたのです。

母は右手に杖を持ち

左手で
わたしにすがって歩きます。

わたしの空いた手には

母のハンドバッグと
ふたり分の荷物が入った重い鞄。

わたし達は、20m行っては休み
10m行っては休み

階段も、5段上がっては休み
3段下がっては休み

延々と
それを繰り返したのです。

9bb73590.jpeg

 新宿駅のホームで
  一息つく母







その挙句

「やれ嬉や
エスカレーターがある!」

と、喜んだのも束の間
一難去ってまた一難

母には乗り移るタイミングが
取れなかったのです。

もちろん
母は健気な明治女です。

泣き言も言わず
「もう懲り懲り」とも言わず

よろけながらも

何とかその場を
乗り切ってくれたのです。



だけど、わたしは懲りた
心底、懲りた。

それは

思い出すだけでも
嫌んなる難行苦行。

ダンディなわたしには
とても耐えられぬ

無様な姿であったのです。

この難行苦行に懲りた
わたしは

母との移動には
車を使うことを決めたのです。

車だったら、ドアツードア

母の車椅子だって
気軽に持ち運べます。

ぶざまな格好を
人に見せることもありません。

だから
「もっぱら車」にしたのです。
山道を歩いていた時
見つけました。

bb52ee4d.jpeg
 火打ち岳スキー場から
  糸魚川方面を望む





人も車も通らないその山道で

今を盛りと咲いていた
名も知らぬ花。

63fbc8a3.jpeg
 名も知れぬ
  ひたすら咲き誇る花






人に見てもらえようが
見てもらえまいが

ただひたすら咲き誇る花

雑念を振り払った
その咲き方に

わたしは感動したのです。

そして

だからこそ、みなさんにも

見てやって欲しいと
思ったのです。
              
実家への道すがら

ちょっと休んだ道の脇
林の中で見つけました。

8.08.16kyousei.jpg
 母とわたしのような
  妻とわたしのような
   子供たちとわたしのような関係





蔦に絡まりつかれ

それでも

しっかり生きている
名も知らぬ木

さぞかし鬱陶しく
さぞかし苦しかったろうに

いつの間にやら
相手を取り込み同化して

今は何事もないように
静かに生きている



母とわたしのような

妻とわたしのような

子供たちとわたしのような

どちらがどちらとは
言えないけれど

そんなことを思わせる
関係でした。
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